書籍名:盗作の言語学 表現のオリジナリティーを考える
著者:今野信二
出版社:集英社新書
表題の通り「オリジナル」とは何かを文法や著作権などから分析していく
本です。
同じか違うかという判断はどうやってなされるのか。
一言で説明するのは難しいですが、例えばそれは表現が非常に似ていたり、
内容がすでに記述されている文章を思い出させるようなものだったり
します。
この本で面白いのは著作の目的「オリジナリティーとは何かを分析する」
の性質上、小説や俳句などからの引用がとても多い点です。
言語学の冠がついた書籍ってよく例文があるんですが、それって創作された
文章が多いんですね。
でもこの本は今現在流通している情報の創作性について分析しているのでつまり引用が多めです。
中にはページの半分が引用の箇所もあったりします。
また、短歌の添削前後を引用しているページもあるですが、どれがどう
変わっているのか分からないくらい細かな修正について述べているので
よく読まないといけなかったりします。
もちろん引用されている例文についてはそれぞれ説明が付いているので、
例文それ自体を熟読する必要ないんですが。
例えば北原白秋の短歌について、助詞の「て」の有無だけが違う例文が出てきます。
ページをまたがって掲載されているので、ぱっと読むだけでは多分読者は
違いに気づくことは出来ません。
つまり「同じ」だと判断しやすいということです。
でも北原白秋は助詞「て」があることによって短歌の音の響きが良く
なると考えているというのです。(p.109-110)
そこまで些細な違いじゃ私には善し悪しが分かりません。
その世界の詩を読む人にしか分からないんじゃないかと思います。
ある文章が同じか異なるかというのはそれくらい微妙なライン際を問う
ということなんだろうと思います。
最後の最後に辞書同士の比較をしているページがあって、それが一番
章としては面白かったです。
小商いや険路など、結局それでしか説明できない単語があるんだなと。
辞書ってある言語の学習者がよく使うものですが、結局のところその
言語話者しか分からないようになっているんですよね。