2017年08月26日

*読書日記『カーネーション』いとうみく

最初から痛々しい話。
全ては見返しの部分に載っていますので引用します。
「あたしは、まだ母に愛されたいと思っている。
いつか母は、私を愛してくれると信じている。

そんなことは無理だとわかっていても、あたしはあたしの
深いところで、いまも願っている。」

まあ御察しの通りです。
お母さんに嫌われている娘がいかにして母を棄てるか。
そういう話なんで、途中つらいエピソード満載です。
ちなみに私はこの本で三回本を閉じました。

一回目はお母さんに自由帳を破られるエピソード。
二回目はお母さんのために野菜炒めを作ったら怒られた話。
三回目はプレゼントを妹にメチャクチャにされた瞬間。

一個ずつ紹介してると私のハートが擦り切れるので、自由帳の話だけ。
お母さんがある日「自由帳を買ってきたよ」と言われたので、つい
「自由帳まだあるよ」と娘が答えてしまったら、突然母親に
自由帳をビリビリに破られてしまったというものです。
ねえしんどくないすか。

でも最後、お母さんと離れるという形で母を棄て、共存できるようになったので良かったです。
こういう本もっと増えて欲しいです。
posted by はぴたん at 20:34| Comment(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月16日

*読書日記『片思い』東野圭吾

600ページ超えの分厚いミステリです。
ふっと夕方思い立って夜のうちに読み終えてしまったくらい面白い話でした。

感想としては、これは一種の妊娠小説だなあということ。
(妊娠小説とは何かについてはhttp://utagiku.jugem.cc/?eid=210が詳しいです)
要は望まない妊娠をして、中絶するシーンが出てくるのですが、それが結構
主人公夫妻にとって致命的な状況なんですね。

えー、なんでそこまで妊娠したくないのにピル飲まないのって思うのは多分少数派。

あと、キーパーソンの美月が子供を残して家を出るくだり。
描写されてないけど、残された子供は相当ショックだったろうなと不憫に思います
多分自分は捨てられたんだと思ってその後の人生に大きな(多分に負の)影響を与えるんだろうな。

と、面白かったこそぐだぐだ言いたくなる小説です。
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2017年08月12日

*読書日記『止まった時間』松本麗華

オウム真理教の松本智津夫被告の三女であるアーチャリーの手記です。
読んでると愛情深い父親だったんだな、父親には愛されてたんだなと感じます。
一方で母親はちょっと問題がありそうな印象を受けました。

地下鉄サリン事件、当時私は小学校低学年だったのですが、あの時の恐怖は
未だに記憶してます。
テレビでオウム関連の報道や特集があると怖い怖い言いながら見ます。
それくらい当時の私には衝撃的な団体でした。
一時期紫色が嫌いになったのは御察しの通りです。

さて、この本は松本一家が船橋に住んでいた時から話が始まります。
そして事件までの楽しかった日々。
何せ教祖の三女ですから遊び放題です。
事件、逮捕。
そして嵐の後の人生が綴られています。
スーパーで買い物していたら報道局員に見つかって逃げたとか、
アーチャリーだとばれた時にコンビニバイトを辞めさせられたとか。

特に記憶に残るのが母親との決裂の時に言われたという言葉。
「組織は立ち上げる時が一番大変なの、解散したら終わりなのよ」というものです。(意訳)
あー、おっかさん教祖の代わりに本も書いてたし、色々苦労したんだなというのが
よく分かりました。
まあ、それと罪は別ですけどね。

松本麗華さんは事件当時12歳くらいの本物の子供だったので罪はないと思います。
こんな家庭に生まれてしまって不幸に思えるかもしれませんが、本人曰く
これで幸せだったと言っているので、まあいいんでしょう。

面白かったですが、図書館で借りて正解かなと思う次第です。
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2017年08月05日

*読書日記『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美

なんか不思議な物語、と思いながらぐいぐい読み進めることができる短編集のような長編。
あら便利ーと思いながら、あらすじはアマゾンからコピペです。

『遠く遙かな未来、滅亡の危機に瀕した人類は、「母」のもと小さなグループに分かれて暮らしていた。異なるグループの人間が交雑したときに、、新しい遺伝子を持つ人間──いわば進化する可能性のある人間の誕生を願って。彼らは、進化を期待し、それによって種の存続を目指したのだった。
しかし、それは、本当に人類が選びとった世界だったのだろうか?
絶望的ながら、どこかなつかしく牧歌的な未来世界。かすかな光を希求する人間の行く末を暗示した川上弘美の「新しい神話」』

こう書くとSFかと思われるんですが、SFというよりファンタジーですかね。
例えば表題作「大きな鳥にさらわれないよう」は実は異能を持つ少女エマが町から出て行くことを
決心するまでの物語。

なんかねー、全体的に不思議な印象のまま話が進むのです。
大きな母システムとか、観察者たちとか。
進化を待ち望んでいる一方で異質な存在を許容できなかったり。
それが人類というものの本質なんじゃないかってくらいに描写されています。
私もそう思うのですが。

さて、そんなわけで読んでみてください。
最後まで読むとまた最初から読み返したくなる一冊です。
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2017年08月01日

灰皿事件

君は灰皿を投げつけられたことがあるかい?
ない? それは良かった。
ある? けがはなかったかい、それならまだ良かった。

私はね、生物学上の父親に灰皿を投げつけられたことがあるよ。
今日はその話をしよう。

あれはね、たしか映画「A.I.」を観た日の晩のことだったかな。
母と姉と映画館で見たんだよ、不思議な映画だった。
その映画を観終わって、その日は普通に家で夕飯を食べることになっていた。
その時は父親も一緒に夕飯を取っていたな。

夕飯のメニューは覚えてないんだ、でもテレビで赤い何かが映っていたことだけは覚えている。
私は家族の誰よりも先に夕飯を食べ終えて、同じリビングにあるパソコンの前に座った。
その瞬間だったよ。
灰皿が私の横をすり抜けてパソコンのモニターに当たったんだ。
一瞬何が起きたのかよく分からなかった。
いや、正確に言うと何が起きたのかよく覚えていないんだ。

何かね、コードにつまずいたとか、父親に口答えしたとか、そういうきっかけがあったの
かもしれない。
でも私はそういうきっかけが何だったのかよく覚えていないんだよ。

そもそも何もなかった可能性さえある。
ただ、父親の機嫌が急に悪くなって灰皿を投げたくなっただけなのかもしれない。
とにかく、とにかく父親は私に灰皿を投げた。
灰皿は私を掠めてモニターは壊れた。

そこから先も実を言うとおぼろげな記憶しかないんだよね。
その晩は確かあの人はリビングルームのソファで眠って、私は姉の部屋で泣きながら眠った気がする。
翌朝パソコンを起動させたら画面が変な感じで斜めに表示されるようになったので、首を曲げながら
しばらくインターネットをしていたんだったかな。

灰皿は誰が片付けたのかとか、翌朝のあの人や他の家族の様子も覚えていない。
多分、私は灰皿を投げつけられたあの時一度死んだんだろうね。
灰皿で頭を殴って自分で自分を食べてしまったんだよ。
だから詳しくは覚えてないんじゃないかと思う。

そしてこれは後日談なんだけど、あの人は自分が灰皿を投げたことを覚えてないんだよ。
数年後にあの時なんで灰皿投げたのって訊いたことがあるんだ。
覚えてないって言ってた。
さらに数年後。つまりあの人が亡くなる直前に念押しで確認したんだ。
そうしたらやっぱり覚えてないって言われてしまった。
あの人にとっては本当に些細な出来事だったんだろうね。

私はあの日灰皿が頭に当たって、病院に連れてかれて児童相談所に保護されたかったって
未だに思うのにね。
そうすればもっと早くあの家族から逃げられたと思ってるのにね。
おかしい話だね。
posted by はぴたん at 05:41| Comment(0) | 物語(自作小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする