ぼんやりとした表情をしているその少年が主人公かずと(一人)です。
タイトルに「もう一人(ひとり)〜」と主人公の名前一人(かずと)の仕掛けが憎いですね。
さて、内容ですが、ある日かずとはヤマモモのおばばという妖精(神さま?)に出会い
「せかせかのカズト」と「ぼんやりぐずぐずするかずと」の二人に分けられてしまいます。
これは生きていくのがつらい人や生き物たちが、そのつらさを一時的にヤマモモの木に
吸い取ってもらい、生きていくための魔法のようなものです。
かずとは特にこれといってつらい何かを抱えているわけではないのに、身を分けられて
しまいました。
せかせかのカズトは何をするにしてもせっかちで、常に焦燥感に追い立てられています。
一方でぼんやりのかずとは、ヤマモモのおばばの家でのんびりと過ごしています。
どちらのかずとも時折何か忘れ物をしたような感じに襲われますが、そのまま何日か
過ごします。
そしてある日おばばはかずとに言います。
「もしもヤマモモの木が、おまえのぼんやりぐずぐずをすいとってしまったら、
おまえは変わる。ちがう人間になってしまうんじゃ」と。
ヤマモモのおばばは急いでせかせかのカズトの元に向かいます。
ちょうどその時カズトは強い強い焦燥感に苛まれ身動きが取れなくなっていました。
ヤマモモのおばばはカズトを説得してヤマモモの木の下でカズトとかずとを元に戻します。
その瞬間二人がこの数日の間に経験した出来事や感情も共有され、つらい思いも
ヤマモモのおばばと過ごした楽しかった時間も一つの経験となっていきました
と、こんな話です。
せかせかのカズトのなんとも言えない焦燥感、苦しみは読んでるだけでつらくなりました。
今の私があのヤマモモの木の下に行ったら身分けしてもらえるんだろうか、そんな空想が
膨らみます。