2017年05月20日

*読書日記『デスマーチはなぜなくならないのか IT化時代の社会問題として考える』宮地弘子

このところあまりにも読書日記を書いてないので自分の中のフォーマットを忘れてしまいました。
でも最近読んだので書くよ。

デスマーチ、この言葉を聞いたことがある人はいると思います。
簡単に言うとあるソフトウェアを作るのに3ヶ月かかるものを1ヶ月で
作ってください、しかも1人で。みたいな状況のことです。

本来の意味は「主として戦争捕虜に強いられる過酷な状況下での行進」(p.7)
を示しています。
この本はそのデスマーチがどのような環境下で発生したのかを当事者への
インタビューやエスノメソドロジーの手法で解き明かしたものです。
(エスノメソドロジーとは社会学の手法の一種)

この本によるとデスマーチとは一人一人が「その時最も適切だ」と
思われる行動をとった結果発生するものだとしています。
この場合の「適切」とは一般的な業界での適切とは異なることに注意が必要です。

例えば、ある製品Aを作る時に技術的な問題があって、3ヶ月という開発期間は
短いとされるものだとします。
通常それは「納期が短い」と営業なり技術なりが異議申し立てが行われるかも
しれません。
しかしIT業界では「できない」ということは「私は無能である」と宣言するような
行為だとみなされているというのです。
当然のことながら「私は無能である」と宣言することは苦しいことです。
つまり、異議申し立てが行われにくい。

こういったIT業界の「あるべき規範」が通常の規範(異議申し立てがある)と異なった結果
納期間際にもかかわらず、深刻なバグが発生する危機的状況でも「さらに1ヶ月の間、Aさんは、
時に朝までにもおよぶ連日連夜の残業や休日出勤を重ねることになり(中略)期限のちょうど
その日にCD-ROMの製造工程へと送られ」るようなことが起こるのです。

このようにその問題が起こる状況での「適切」「あるべき規範」に注目することで
この本ではデスマーチを分析しています。

デスマーチ、噂程度では聞いたことはありますが、ここまでインタビューでデスマーチ
に巻き込まれた(巻き起こした)人の話を読むことができるのはなかなかないです。
その上エスノメソドロジーの手法についても学べる貴重な1冊だと思います。
posted by はぴたん at 20:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする