「かげおくり」って遊びを私に教えてくれたのは小学校の教科書でした。
晴れた日に自分の影を10数えるまで見つめて、空を見上げると自分の影がそっくり
空に映って見えるというものです。
学校によって教科書会社が違うので習ってない人も多いと思います。
「ちいちゃんのかげおくり」は戦時中にかげおくりをして遊んだ少女の物語です。
ある日ふと読みたくなって、図書館で借りてみました。
でも図書館にあるのは大型の絵本ばかりで読みにくいだろうと思われたので、
いくつかの戦争小説を集めたポプラ社の短編集を借りてみました。
「ちいちゃんのかげおくり」は、空襲で親とはぐれてしまったちいちゃんが最終的に亡くなって
終わるのですが、死に際に「お腹が空いて軽くなったから飛んだのね」という一言が
なんとも言えない読後感を与えてくれます。
死因がはっきり描かれてないんですよ。
第二次世界大戦中の日本なので、飢餓とか脱水とかが複合的に重なってしまった結果の死なんだろうと
思うのですが、戦争というのは何をしても(何をしてなくても)死に至る不毛なものだというのが
作者のメッセージなのかなと珍しく行間を読んでみました。
この短編集、他にもえぐい物語が載っていて、特に「戦争にでかけたおしらさま」というのが
パンチがあったのであらすじを紹介します。
舞台は(多分)東北地方。おしらさまというのは地域に伝わる家の守り神です。
木の棒に簡単な着物を着させた単純な神様なんですが、その家に困ったことや恐ろしいことが
起きた時に守ってくれるという信仰がありました。
少年仙吉の家にもとびきりご利益のあるおしらさまがまつってありました。
そのおしらさまは、わんぱく者に強奪されても、ほとぼりが冷めた頃その家に戻ってくる
不思議な力を持っていました。
そんなある日仙吉にもとに赤紙が届きます。
ついに仙吉も徴兵されることになったのでした。
家のおばばは「なんの、なんの、この神さまがついてりゃ、仙吉は死ぬわけはねえ。」と
出征する仙吉の腹巻の中におしらさまを入れて見送りました。
ところが、仙吉の乗った船が潜水艦に攻撃されてしまい、仙吉とおしらさまは離れ離れになってしまいます。
おしらさまは「おらぁ、家のまもり神じゃ。どうでも仙吉の家にまいもどらねば」と
海のカモメよりも遅くよたよたと飛んでやっとのことで家にたどり着き庭に落ちました。
そして仙吉の名前が書かれた紙だけが入ったお棺だけが村に戻ってきました。
お母さんはとおばばはおしらさまがついていながら仙吉が死んでしまったことをクドクドと
言い続けました。
おしらさまがそれを聞いてるとは知らずに。
そしておばばが庭を通り抜けたその弾みで、黒こげのおしらさまを踏みつけ、
みしりと二つに折ってしまいました。
「からからと、あざけるように風がまいあがり、おしらさまは、それっきり
地べたにもぐりこんで・・・・・・、やがて土になった。」
というおはなしです。
他にも子供達から柿をもらう兵隊さんや、空腹をまぎらすためにご馳走の絵を描く少年の話など、
戦争ってなんなんだろうねという話が続きます。
いろいろなツケが弱いところにいくんだよ…
そんな短編集でした。
余談ですが「かげおくり」大学時代に目の錯覚の一つだと学んでびっくりしたのは秘密です。