2017年08月01日

灰皿事件

君は灰皿を投げつけられたことがあるかい?
ない? それは良かった。
ある? けがはなかったかい、それならまだ良かった。

私はね、生物学上の父親に灰皿を投げつけられたことがあるよ。
今日はその話をしよう。

あれはね、たしか映画「A.I.」を観た日の晩のことだったかな。
母と姉と映画館で見たんだよ、不思議な映画だった。
その映画を観終わって、その日は普通に家で夕飯を食べることになっていた。
その時は父親も一緒に夕飯を取っていたな。

夕飯のメニューは覚えてないんだ、でもテレビで赤い何かが映っていたことだけは覚えている。
私は家族の誰よりも先に夕飯を食べ終えて、同じリビングにあるパソコンの前に座った。
その瞬間だったよ。
灰皿が私の横をすり抜けてパソコンのモニターに当たったんだ。
一瞬何が起きたのかよく分からなかった。
いや、正確に言うと何が起きたのかよく覚えていないんだ。

何かね、コードにつまずいたとか、父親に口答えしたとか、そういうきっかけがあったの
かもしれない。
でも私はそういうきっかけが何だったのかよく覚えていないんだよ。

そもそも何もなかった可能性さえある。
ただ、父親の機嫌が急に悪くなって灰皿を投げたくなっただけなのかもしれない。
とにかく、とにかく父親は私に灰皿を投げた。
灰皿は私を掠めてモニターは壊れた。

そこから先も実を言うとおぼろげな記憶しかないんだよね。
その晩は確かあの人はリビングルームのソファで眠って、私は姉の部屋で泣きながら眠った気がする。
翌朝パソコンを起動させたら画面が変な感じで斜めに表示されるようになったので、首を曲げながら
しばらくインターネットをしていたんだったかな。

灰皿は誰が片付けたのかとか、翌朝のあの人や他の家族の様子も覚えていない。
多分、私は灰皿を投げつけられたあの時一度死んだんだろうね。
灰皿で頭を殴って自分で自分を食べてしまったんだよ。
だから詳しくは覚えてないんじゃないかと思う。

そしてこれは後日談なんだけど、あの人は自分が灰皿を投げたことを覚えてないんだよ。
数年後にあの時なんで灰皿投げたのって訊いたことがあるんだ。
覚えてないって言ってた。
さらに数年後。つまりあの人が亡くなる直前に念押しで確認したんだ。
そうしたらやっぱり覚えてないって言われてしまった。
あの人にとっては本当に些細な出来事だったんだろうね。

私はあの日灰皿が頭に当たって、病院に連れてかれて児童相談所に保護されたかったって
未だに思うのにね。
そうすればもっと早くあの家族から逃げられたと思ってるのにね。
おかしい話だね。
posted by はぴたん at 05:41| Comment(0) | 物語(自作小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください