2017年07月24日

うさぎ小屋に閉じ込められた話(半分実話の小説)

うさぎ小屋に閉じこめられた。しかも汚い方に。
外から鍵を掛けられた時、私はユーゴやユウタに泣きながら「開けてくれ」と頼んだ。
あいつらはそんな私の真似をしながら笑って喜んで去って行った。
私をうさぎ小屋に残して。

しゃがみ込んで泣いた。なんで飼育係になんてなっちゃったんだろう、何であいつらと一緒にうさぎ小屋の掃除を始めちゃったんだろう、なんで私だけ中に入ったままでいたんだろう、こっちの小屋の金網は指しか通らないのになんでここの掃除を担当しちゃったんだろう。バカな自分、バカバカバカ。
うさぎ小屋の隅で一通り泣いていた私は、ふと疲れを覚えて汚いうさぎ小屋の床に座り込んだ。

その時だった、ふっと入り口の方に目をやると淡い光と共にスキッパーがいた。
ハリネズミみたいなツンツン頭をして、黄色いサマーセーターを着て、茶色のズボンを履いて、片手には本さえ持っている。
あのシリーズのスキッパーだ。間違いない。

思わず立ち上がって天井に頭をぶつけてしまった。汚い方のうさぎ小屋はきれいな広い方と違って天井が低くて、私だとまともに立てないんだった。
でもそんなことはどうでも良かった。
何故かは分からないけどスキッパーがここにいる。ただそれだけで何だか助かった気がした。

「ねえスキッパーでしょ、私は裕子って言うの。助けてよ」
私がスキッパーに話しかけると、スキッパーは私の隣に来て座り込んだ。

「裕子。聞いて僕には君を助けることが出来ない。今は夏休みだ、しかももう夕方。たぶんもう誰も来ないよ。でも大丈夫だ、夏休みの間プールがあるだろう、その時にうさぎ小屋を見に来る人がいるかもしれない。その時に助けてもらおう」
スキッパーから差し出された手に私は縋るように手を伸ばした。スキッパーは私より年下だから、ちょっと手は小さいけど、でも温かだった。

「スキッパー、私助かるのかな。お父さんもお母さんも多分私が何日かいなくなっても気付かないよ。それに学校のプールとうさぎ小屋はずいぶん離れてるんだよ、誰も来ようとしないんじゃないかなあ」
「大丈夫だよ、だって校庭で一番涼しいのは木が茂っているこの辺りだろう? プールが始まる前にやってきて涼みに来る人はいるはずだよ」
そう聞くと、なんだかそうかもしれないと思えるようになった。

立ち上がった気配を感じて私は隣のスキッパーを見た。
そうか、スキッパーは私より少し小さいからちゃんと立ち上がれるんだね、そう言おうと思った瞬間、スキッパーは現れた時と同じように、ほのかな光を発しながら消えていくところだった。
「ねえ待ってよ、せめて一緒にいて!」
「君はもう大丈夫、大事なのは体力を温存すること、汗をかかないことだよ、また本の中で会おう」
最後の「会おう」あたりではスキッパーはほとんど光しか見えなくなっていたけど、確かに声は聞こえた。

ああ行ってしまった、もしかして夢だったのかもしれない、そう考えたらまた泣きそうになった。
でも涙で余計な水分を出すのはだめだと思った、だからうさぎのキャベツをちょうだいすることにした。
さっき掃除して、置いたばかりだからまだそんなに汚くない、「大丈夫、汚くない汚くない」そう念じてキャベツを1/2枚食べた。

キャベツを食べたらちょっと落ち着いてきた。
さっきスキッパーは学校のプールのことを言っていた。
今日は月曜日、プールは毎週月曜と水曜と金曜日に開かれるだったはずだ。
だから次にチャンスが来るとしたら明後日の水曜日、明日はきっと誰も来ないだろう。
そうすると体力を温存しておいた方が良いという気がしてきた。

朝見た天気予報では明日は晴れの予報。
屋根がないから雨が降らないのは有り難いけど、暑くなるのが心配だった。
確かにこの辺りは桜の木やイチョウの木が茂っているから、校庭のどこの場所より涼しいはずだ。
でも昼間に何時間もここにいたことがないから、正直言ってよく分からない。

分からないことが不安を呼ぶ、また泣きそうだったから腕を噛んでこらえた。
スキッパー、怖いよ、傍にいてよ。私は小さくつぶやいた。

朝、だった。
いつの間にか眠っていたらしい。うさぎがモシャモシャとキャベツを食べている。
私も半分もらうことにした。

私は飼育係なのにうさぎをじっくり見たことがあまりなかった。
小さな口でガリガリとキャベツかじってはモグモグと口を動かす。
口を動かしている最中でもどんどんキャベツをかじる。
いつ飲み込んでるんだろうと言うくらい、常に口を動かしていた。

私もそれくらいたくさん噛めばお腹が膨れるかなと思って、とにかく噛むようにした。
キャベツを半枚食べたけど、お腹は膨れなかった。

その日は暑かった。確かに直射日光は当たらないけど、木が多いせいかとにかく蒸す。しかも風がない。
腕の傷を隠すために毎日長袖を着ていたけれど、一枚脱がざるを得ないと思った。
どうせ誰も見ないんだ、別に良いだろう。

日差しが強くなった気がする、昼近くなってきたのかもしれない。
暑さもつらいけれど、もっと辛くなってきたのは空腹感。じりじりとお腹が刺激される気がする。
最後に食べたのは昨日のお昼の素麺だから仕方ない。
昔読んだサバイバル本に水がなくても3日は保つと書いてあった気がする。
うさぎ小屋の水は飲めない、きれいじゃないから飲みたくないっていうのもあるけど、うさぎの水を奪うわけにはいかない。

仕方ないから右手の爪をかじって食べる。
痛みを感じる直前まで爪をかじり取って、爪の下にある柔らかい肌を食べる。
やっぱりお腹は膨れない。
左手の方もかじろうかと思ったけど、夕方食べようと思いあきらめた。

暑い、小屋の中のうさぎのフンをできるだけ隅に集めた。
洋服をたくし上げて、うつ伏せになる。
素肌のお腹にコンクリートがちょっとひんやりして気持ちいい。
そんなことをしていたらまた時間が過ぎていたらしい、夕方だった。
今日はやっぱりだれも来なかったなと当然のように思う自分がちょっと強くなった気がした。

暗くなってきたからまたキャベツをもらう。
うさぎはまたかという顔をしながらも私にキャベツを譲ってくれる。
キャベツはとにかくよく噛んで、液状になってから飲み込む。
それから爪と皮膚とかじってデザートにした。

中途半端に何か食べると余計にお腹が空く気がするな。
そんなことを感じながら長袖を着て、ぼんやりとする。明日のことを考えなきゃ。
プールは何時から始まるんだろう、プールが始まったらキャアキャア声がするから、多分私がどんなに叫んでもかき消されてしまう。
だとしたら朝一番のまだ静かな時間に人の気配を感じたときに叫ぶしかない。
誰かが来た気配がしたら全力で声を出す。
なにかしら聞こえればもしかして誰かが来てくれるかもしれない。
これを逃したら次はまた明後日だ。
キャベツも水分も金曜まで保つか分からない、多分保たないだろうと思う。

私はどれくらい声が出せるんだろう、試しておこうと思った。
昔授業で習ったことがある。
「キャー」とか「助けてー」とかだと子供がふざけてると思われるかもしれないから、「火事だ!」とか「泥棒だ!」とかが良いと言っていた。
叫んでみよう、うさぎにはびっくりさせて申し訳ないけど、一回練習しておきたくなった。

「火事だ!」
だめだ、なんか足りない気がする。もう一度叫んでみよう。
深く息を吸って、「火事だー!!」
何か遠くで声が聞こえた気がした。

しばらくして校舎の方に明かりがついた。
誰かが来たらしい。
警備員の人がこちらにやってきた、キョロキョロと周りを見ている。
「おじさーん! 私ここにいるの、助けて!」
警備員のおじさんがうさぎ小屋の方に来た。
私を見つけてびっくりしているようだった。
「君、いつからそこにいたの? なんでこんなところにいるの?」
「私は5年1組の桜井裕子です。色々あってここに閉じこめられちゃったんです・・・」



ここから先のことは正直に言ってよく覚えていない。
火事だという私の声を近所の人が聞いて、警備員さんがやってきたそうだ。
その後、私は軽い脱水で病院に運ばれたんだけれど、それからのことはあまり覚えていない。
病院内でお父さんが看護士さんに怒鳴っていて、「おいおい怒鳴る相手を間違ってるよ」と思ったこと。
遅れてやってきたお母さんが、眠っている私の腕の傷をなでて何処かに行ってしまったこと。
夏休みが終わって学校が始まった後も、学級会という名の私の非を責め立てられる裁判があったこと。
それ以外のこともたくさんあったと思うんだけど、それらは忘れられそうにもないし、同時に思い出したくもない。
posted by はぴたん at 22:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語(自作小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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